神社本庁が推進する「デジタル神前式」とは?現代のカップルに人気の理由

みなさん、神社の伝統的な神聖空間とデジタル技術が融合したら、どんな未来が広がるか想像したことはありますか?

私が先日訪れた鎌倉の老舗神社では、神職さんがiPadを手に持ち、神聖な儀式の準備をしている姿が目に飛び込んできて、思わず二度見してしまいました。

実は今、静かに、でも確実に「デジタル神前式」という新しい結婚式のかたちが広がりつつあるんです。

コロナ禍をきっかけに、意外にも保守的なイメージの強い神社本庁が、伝統と革新の狭間で踏み出した一歩。

この記事では、デジタルと伝統が織りなす新しい神前式の魅力と、現代のカップルたちがなぜこのスタイルを選ぶのか、その理由に迫ってみたいと思います。

デジタル神前式の基本と特徴

朝日が差し込む神社の社殿、清らかな空気、厳かな雰囲気——神前式の持つ独特の神聖さは、多くのカップルを魅了してきました。

でも、「デジタル神前式」と聞くと、神聖な雰囲気とテクノロジーの組み合わせに違和感を覚える方も多いのではないでしょうか?

そこでまず、従来の神前式とデジタル神前式の違いについて見ていきましょう。

従来の神前式とデジタル神前式の違い

従来の神前式といえば、神社の社殿に新郎新婦と親族・親しい友人が集まり、神職の方による儀式が執り行われるというスタイル。

これに対してデジタル神前式では、物理的な距離を超えて参列者がオンラインで儀式に参加できるようになります。

ただし、神社本庁が定めるガイドラインでは「新郎新婦は原則として神社に実際に参拝する」ことが基本とされています。

つまり、儀式の中心となるカップルは実際に神社で神職から祝福を受け、その様子をライブ配信で共有するというハイブリッドなスタイルが主流なんです。

驚くことに、神社によっては360度カメラを設置して、オンラインの参列者があたかもその場にいるかのような臨場感のある体験を提供しているところもあります。

私が取材した鶴岡八幡宮では、「神聖な空間の雰囲気をできるだけそのままに伝えることが大切」と若手の神職さんが教えてくれました。

神社本庁が定めた「デジタル神前式」の公式ガイドライン

2021年に神社本庁から正式に発表された「デジタル神前式」のガイドラインには、いくつかの重要なポイントが含まれています。

まず大前提として「神前式の神聖さと厳粛さを損なわないこと」が最重要視されています。

具体的なガイドラインとしては、以下のような項目が定められています:

  • 新郎新婦は原則として神社に参拝すること
  • 配信システムは神社の雰囲気を損なわないよう配慮すること
  • オンライン参列者も心身を清め、神聖な場に参加する心構えを持つこと
  • 配信映像の録画・SNS投稿については神社との事前相談が必要

なんだか堅苦しく聞こえるかもしれませんが、これは「デジタルだからといって、神前で誓い合うという本質は変わらない」という神社本庁の思いが表れているように感じます。

実際、ある神職さんは「形式は変わっても、二人が神様の前で誓い合う意義は普遍的なもの。それを失わないように配慮しています」と教えてくれました。

バーチャルとリアルの融合:デジタル神前式の3つの形態

現在、「デジタル神前式」は大きく分けて次の3つの形態があります。

1つ目は「ライブ配信型」。新郎新婦と一部の参列者は神社に集まり、他の参列者はオンラインで儀式に参加するスタイルです。

2つ目は「ハイブリッド参加型」。オンライン参列者も儀式の一部に参加でき、画面越しに祝辞を述べたり、デジタル祝電を送ったりできるインタラクティブな形式。

そして3つ目が「フル仮想型」。これは海外在住の日本人カップルや、特別な事情で神社に参拝できないカップル向けに、VR技術を活用して神社の空間を再現するという最先端の取り組みです。

東京・神田明神では「VR神前式」という先進的な取り組みを始めていて、実際に訪れた時の空気感や音までもが再現されていることに驚きました。

「画面越しでも、神様の前でのお誓いは変わりません」と神田明神の宮司さんは語ります。

こうした多様な形があることで、様々な事情を抱えるカップルが自分たちにぴったりの形で神前式を選べるようになっているんです。

現代カップルがデジタル神前式を選ぶ理由

「なぜ今、デジタル神前式なの?」

この問いに答えるために、私は実際にデジタル神前式を選んだ5組のカップルにインタビューしてみました。

すると、彼らの選択理由には明確な共通点があることがわかったんです。

コロナ禍がもたらした結婚式スタイルの変化

「最初はコロナ対策としての選択でした」

東京在住の佐藤さんカップルは、もともと伝統的な神前式を希望していましたが、パンデミックの影響で計画変更を余儀なくされたそうです。

しかし、デジタル神前式を体験した後は「むしろこちらの方が良かった」と言います。

特に高齢の祖父母が遠方から無理なく参加できたことが大きかったとのこと。

実は、神社本庁がデジタル神前式の公式ガイドラインを策定したのも、コロナ禍で多くのカップルが結婚式を延期・中止せざるを得ない状況を目の当たりにしたからなんです。

思いがけない危機が、伝統ある神社の新たな一歩を促した形ですね。

コロナ禍は収束しつつありますが、この新しいスタイルはむしろ広がりを見せています。

便利さや柔軟性が認知されるにつれ、「必要に迫られた選択」から「積極的な選択」へと変わりつつあるのです。

SNS世代に響く視覚的な魅力と共有しやすさ

「友人たちとの思い出共有が簡単になりました」

20代後半の山田さんカップルは、デジタル神前式の魅力として「視覚的な美しさと共有のしやすさ」を挙げます。

プロカメラマンによる撮影に加え、複数アングルからの映像が残せるため、SNSでシェアするのに最適な瞬間を逃さず記録できるとのこと。

特に人気なのが、神前式ならではの「三三九度」の場面だそうです。

美しい社殿を背景に、和装姿のカップルが盃を交わす姿は、Instagramで映えるだけでなく、日本文化の素晴らしさを伝える絶好の機会になっています。

また、海外にいる友人とも簡単に体験を共有できることから、国際結婚のカップルにも人気が高まっています。

「母国の家族にも日本の伝統的な結婚式を見せられて嬉しかった」と語るのはアメリカ人と結婚した鈴木さん。

オンラインという形だからこそ、言葉の壁を超えて神前式の美しさが伝わったそうです。

経済的メリットと柔軟性:予算と場所の制約を超える

「予算を大幅に抑えられたのが決め手でした」

多くのカップルが口をそろえて語るのが、デジタル神前式の経済的メリット。

従来の結婚式と比べ、会場費や参列者の飲食費など大幅にコストカットできるといいます。

神前式自体の費用は変わらないものの、披露宴をオンライン上で簡略化したり、参列者の交通費や宿泊費が不要になったりするため、総合的な費用は従来の半分以下になるケースも少なくありません。

あるカップルは「浮いた費用で新居の頭金に回せました」と語っていました。

また、神社選びの自由度も広がります。

「憧れの伊勢神宮で挙げたかったけど、遠方の親族のことを考えると諦めていました。でもデジタル神前式なら実現できると気づいたんです」

地理的制約が減ることで、カップルの「憧れの神社」で式を挙げられるようになったのは、大きなメリットと言えるでしょう。

デジタル神前式の体験レポート

ここからは私自身が取材した、リアルなデジタル神前式のレポートをお届けします。

実際に神社で何が起きているのか、そして画面越しの参列者はどんな体験をしているのか、気になりますよね?

鎌倉の老舗神社で体験:360度カメラが捉えた神聖な瞬間

先月、鎌倉の由緒ある神社で行われたデジタル神前式に、取材として参加させていただきました。

朝露が輝く境内、松の木々の間から差し込む柔らかな光、そして清々しい空気。

神社の厳かな雰囲気は、デジタル機器が持ち込まれても少しも損なわれていないことに、まず安心しました。

社殿の片隅には小さな三脚が立ち、その上に360度カメラが静かに置かれています。

技術スタッフは神職の方と事前に打ち合わせを行い、カメラの位置や音声の拾い方などを細かく調整していました。

儀式が始まると、私は実際に社殿で参列する家族と、オンラインで参加する親族・友人の両方の反応を観察。

画面越しでも、三三九度の瞬間には自然と息を飲み、笑顔がこぼれる様子が見られました。

特に印象的だったのは、儀式の最中、新婦の祖母が感極まって涙を流すシーン。

彼女は体調の問題で長距離移動ができなかったそうですが、「孫の晴れ姿をこんなにはっきりと見られるなんて」と何度も画面に手を伸ばす姿が、胸を打ちました。

カップルの声:「距離を超えて家族全員が参列できた喜び」

「一番嬉しかったのは、入院中の父も参加できたこと」

こう語るのは、デジタル神前式を選んだ中村さんカップル。

新郎の父親は手術後の療養中で、病室からのオンライン参加となりました。

「父が病室のベッドから見守ってくれている姿を、式の最中にスクリーンで見ることができて、これが私たちにとっての奇跡でした」と新郎は振り返ります。

また別のカップルは、コロナ禍で入国制限のため来日できなかった海外の親族のことを挙げていました。

「時差のことも考慮して午前中の挙式にしましたが、アメリカにいる親族も全員起きて参加してくれたんです。日本にいる親族と海外の親族が、式後のオンライン会食で初めて顔を合わせて話せたのも良い思い出です」

物理的な距離を超えて、大切な人全員と喜びを分かち合えることが、デジタル神前式最大の魅力かもしれませんね。

神職の本音:伝統を守りながら変化を受け入れる葛藤

「正直、最初は反対でした」

取材に応じてくれた60代の神職は、そう切り出しました。

「神聖な儀式がカメラで切り取られることに抵抗がありましたし、画面越しの参列者の心が本当に神様に届くのか、懸念もありました」

しかし、実際にデジタル神前式を執り行う中で、その考えは徐々に変わっていったといいます。

「遠方の祖父母の喜ぶ顔を見て、これも神様のご意志なのだと感じました。形は変わっても、人々を結び付け、幸せを分かち合うという神前式の本質は変わらないのだと気付いたんです」

一方、20代の若手神職は「むしろチャンスだと思っています」と前向きな姿勢。

「デジタル化によって神社と現代人の距離が縮まるなら、それは神社にとっても良いことです。若い世代に神前式の素晴らしさを知ってもらうきっかけになるはず」

伝統を守ることと時代に合わせて変化することのバランスは、神社が常に向き合ってきた課題。

デジタル神前式という新たな試みは、その葛藤の中から生まれた一つの答えなのかもしれません。

デジタル神前式の課題と未来展望

画期的な試みであるデジタル神前式ですが、導入からまだ日が浅く、様々な課題も見えてきています。

それらの課題と、これからの可能性について考えてみましょう。

技術的課題と解決策:安定した配信環境の確保

「一番の悩みは通信環境です」

神田明神の担当者は、こう語ります。

特に築年数の古い社殿では、厚い壁や木材がWi-Fi電波を遮断してしまうケースが多いのだとか。

また、神聖な儀式中に「通信が途切れました」というトラブルは避けたいところ。

こうした課題に対し、各神社は様々な工夫を凝らしています。

例えば、専用の回線を引いたり、バックアップ用の複数回線を準備したり。

鶴岡八幡宮では、神社の雰囲気を損なわないよう、配線を社殿の柱や天井に巧みに隠す工夫もされていました。

「見えないところでの準備が9割」と話すのは、デジタル神前式の技術サポートを手がける会社の担当者。

事前のリハーサルを念入りに行い、当日のトラブルを最小限に抑える努力が続けられています。

神聖さの維持:デジタル空間でも伝わる厳かさの工夫

デジタル神前式最大の懸念は「神聖さが損なわれないか」という点。

これについては各神社が創意工夫を重ねています。

たとえば、オンライン参列者にも事前に「心を清める方法」や「正式な参列の作法」をレクチャーする神社もあります。

「画面の前でも姿勢を正し、心を込めて参列してほしい」というメッセージを伝えることで、デジタルでありながらも神聖な儀式としての品格を保つ工夫がなされているのです。

また、音響面でも試行錯誤が続いています。

神前式特有の「雅楽」や「神職の祝詞」の繊細な音色をいかに忠実に伝えるか。

高性能マイクの配置や音響調整によって、オンライン参列者にも神社の厳かな雰囲気を音で伝える取り組みも進んでいます。

「映像よりも音が重要なことも多い」と語るのは、音響を担当するエンジニア。

鈴の音や祝詞の響きが、画面越しでも神聖な雰囲気を伝える鍵となっているようです。

国際化する神前式:海外在住日本人や国際カップルへの広がり

デジタル神前式の思わぬ効果として、海外在住の日本人や国際カップルからの問い合わせが急増していることが挙げられます。

「日本の伝統に根ざした結婚式を挙げたいけれど、海外に住んでいて難しい」

そんな声に応えるべく、英語対応のデジタル神前式や、時差を考慮した挙式時間の設定など、国際的なニーズに応えるサービスも増えつつあります。

ある神社では、日本人とスウェーデン人のカップルのために、祝詞の一部を英語に翻訳し、オンライン参列の海外親族向けに字幕を表示するという試みも行われました。

「国境を超えて日本の伝統文化が広がるきっかけになれば」と語るのは、国際結婚のサポートに力を入れる神社関係者。

デジタル神前式が、日本文化の国際的な発信の一翼を担う可能性も見えてきています。

デジタル時代の神社文化

デジタル神前式は、神社文化全体のデジタル化の一部に過ぎません。

今、神社では様々なデジタル革新が進行中なんです。

若手神職たちが推進するデジタルイノベーション

「変えるべきではないものと、変わるべきものを見極めることが大切」

そう語るのは、30代の若手神職・高橋さん。

彼を含む若手神職たちが中心となって、「神社デジタル化プロジェクト」という取り組みが全国で広がっています。

例えば、伊勢神宮の若手神職チームは、参拝者向けのAR(拡張現実)アプリを開発。

スマートフォンをかざすと、普段は見ることのできない神事の様子や神社の歴史が映像で表示される仕組みです。

「若い世代に神社の深い意味を伝えたい」という思いから生まれたこのアプリは、若年層の参拝者増加に貢献しているそうです。

また別の神社では、SNSを活用した「バーチャル参拝」の仕組みづくりに挑戦。

Instagramのライブ配信で季節の祭事を公開し、コメントで参拝者の願い事を受け付けるという試みは、特に地方の神社で注目を集めています。

こうした取り組みの背景には「守るべき伝統と、変えるべき部分を見極める」という若手神職たちの真摯な姿勢があります。

SDGsと神社のつながり:持続可能な伝統文化のあり方

「実は神社は、日本最古のSDGs実践者かもしれません」

これは神社本庁のデジタル戦略アドバイザーの言葉。

自然との共生、森林保全、水源保護、地域コミュニティの維持など、神社が古来から大切にしてきた価値観は、現代のSDGsの理念と驚くほど重なるのです。

この「神社とSDGsの親和性」を発信するため、いくつかの神社では特設サイトやSNSを活用した情報発信に取り組んでいます。

鎌倉の某神社では、デジタル神前式の収益の一部を森林保全活動に充てるプロジェクトも始まっています。

「デジタルだからこそ、自然の大切さを伝えられる部分もある」という逆説的な視点も芽生えているのです。

この流れは、神社の新たな社会的役割の模索でもあり、神社文化の持続可能性を高める取り組みとして注目されています。

バーチャル参拝から御朱印デジタル化まで:神社のデジタルトランスフォーメーション

神社のデジタル化は、結婚式だけにとどまりません。

最近注目を集めているのが「デジタル御朱印」の取り組み。

コロナ禍で「御朱印集め」が難しくなった状況を受け、専用アプリで御朱印を集められるサービスが人気です。

「実際の御朱印の代わりになるものではなく、あくまで補完的な存在」と神社側は位置づけていますが、若い参拝者からは「気軽に始められる」と好評だとか。

他にも、祭事のライブ配信、神楽や雅楽の演奏をデジタルアーカイブ化する取り組み、神社間のオンライン連携など、様々な試みが進んでいます。

特に印象的だったのは、高齢化が進む神職の「遠隔支援システム」。

神職が不在の地方の小さな神社でも、オンラインで別の神社の神職が儀式をサポートする仕組みが試験的に導入されています。

「デジタル化は神社を消滅から守る手段にもなりうる」と語る関係者の言葉が印象的でした。

まとめ

神社の杜に響く鈴の音と、デジタルの光。

一見相反するようでいて、実は同じ目的に向かっているのかもしれません。

デジタル神前式の広がりは、日本の伝統文化が持つ柔軟性と強さを改めて示してくれました。

神聖さと先進性は、決して相反するものではない。

むしろ、変わらぬ本質を守るために、形式は柔軟に変化していく——それこそが千年以上続いてきた日本の神社文化の真髄なのかもしれません。

皆さんも、機会があればデジタル神前式を体験してみませんか?

実際に参列してみるのはもちろん、いつか自分自身の晴れの日の選択肢として考えてみるのも良いかもしれません。

デジタル神前式の予約や詳細については、各神社のホームページで確認できますよ。

日本の伝統とテクノロジーが融合する新しい文化の形成に、ぜひ皆さんも参加してみてください。

きっと、想像以上の感動と新たな発見が待っているはずです!

最終更新日 2025年6月10日 by vbutam